グリゴーリー・セドゥフ Grigori Sedukh, Violin-Piccolo

Contents Page

レオニード・グルチン Leonid Gulchin, Cello

 

ピッコロヴァイオリンの特徴

1.普通のヴァイオリンより1オクターブ高く調弦

2.ボディーが薄い

3.f字孔が大きい

4.ネックがかなり短い

5.音色が独特(フルートの音にも似ている)

6.楽器がかなり繊細(ちょっとしたことで音色が変わってしまう)

 

読売新聞大阪本社撮影ビデオより

 

音の生まれる場所57
ピッコロヴァイオリンにこだわる

(G.セドゥフ氏談:音楽之友社「教育音楽」1999年12月号掲載記事より)

ピッコロ・ヴァイオリンとは…
ユーディ・メニューインのような偉大な音楽家になることが、私の子供のころの夢だった。そして、私の理想ともいえるピッコロヴァイオリンのとても美しい音色に、私はメニューインのような音楽的な理想を感じるのだ。ピッコロヴァイオリンは魅力的な音色がする。言葉で表現するならば、フルートあるいは人の声とも思えるような音とヴァイオリンの音を合わせたような、独特の音色を持つ楽器だ。
ピッコロヴァイオリンは、アメリカの著名なヴァイオリン製作者、天才カーリーン・M・ハッチンス女史の手により、30年という年月をかけて作り出された楽器である。古い「ヴァイオリン・ピッコロ」は、普通のヴァイオリンよりも3度高い調弦をするが、この新しい「ピッコロヴァイオリン」は、普通のヴァイオリンよりも1オクターブ高く調弦する。また、G線には普通のヴァイオリンのD線にはA線を、A線にはE線を、E線には0.7mmという細い特殊な弦(世界でも有数のスーパー・センシティヴというメーカにハッチンス女史が作らせたもの)を用いる。そのため、ヴァイオリンとはひと味違った、高くて魅力的な音色を出すことができるのだ。

ハッチンスの新ヴァイオリン属の現在
私がこの魅力的な楽器に出会ったのは、1994年のことだった。ハッチンス女史が、実験的な演奏を行うために8種類からなる新しいヴァイオリン属の楽器(注)をサンクト・ペテルブルグ国立音楽院に送ってきたのだ。サンクト・ペテルブルグ国立音楽院で、私は室内楽科の教授を務めている。この8梃の楽器をロシア国内に持ちこむことは大変に難しく、とても労力を要したのだが、彼女はロシアの弦楽器奏法が世界一であることを知っていたのだろう。演奏するには大変な演奏技術の必要なこの楽器をわざわざロシアまで送ってきたのだった。事実、アメリカやスコットランドの音楽家たちがハッチンスのヴァイオリンを試してみたが、彼らは試すだけに終わってしまい、実際に演奏に使っているのは我々だけなのである。
ハッチンスのヴァイオリン属と、なぜか相性のよい我々は、その後サンクト・ペテルブルグ・ハッチンス・オクテットを結成し、これらの楽器を使って、演奏活動を開始した。1995年1月にサンクト・ペテルブルグで行われた初演は、歴史上に残る演奏となり、ハッチンス女史は公演後涙を浮かべるほどだった。我々も同じだった。その後、定期的にオクテットの演奏会を開いていたが、半年ほど前に8梃のハッチンス・ヴァイオリンはアメリカに戻ってしまい、演奏会はできなくなった。今は、1995年にハッチンス女史より贈られた私のピッコロヴァイオリン1梃があるだけである。現在、世界にはピッコロヴァイオリンは、それ以外のものも含めて8梃存在するが、私が所有する1梃のほかは、ニューヨークのメトロポリタン博物館やオックスフォード大学博物館など、すべて博物館に眠っている。

ロシアの音楽教育
世界中で演奏活動をしていると、私はドイツにとても音楽的な雰囲気を感じる。そして、それは日本にも言えることだと思う。数え切れないほどの演奏会をしてきたので、私は演奏後の拍手が、心からのものか形式的なものかを感じ取ることができる。日本の聴衆は、本当に静かに注意深く演奏を聴き、時には涙を流しながら心からの拍手をしてくれる。私は驚くと同じに、日本人は本当に音楽が好きなのだということを理解する。そして、素晴らしい聴衆である日本の皆さんに、心から感謝している。
音楽教育について言えば、私はロシアが世界一だと思っている。素晴らしい音楽家、レオニード・コーガンやオイストラフは、コンクール前になると毎日3時間以上もただでレッスンを行っていた。彼らは若い音楽家の卵たちに、自分の音楽を伝えていくことが重要だと思っており、時計も見ずにレッスンをするのだ。ロシアからは本当に多くの天才的音楽家が育っている。それはロシアの音楽教育システムがよいからにほかならない。
ロシアの小学校の音楽の授業では、おもに歌を学習する。7歳からは小学校と別に毎日音楽学校に通い、それぞれの楽器を専攻して専門的なレッスンを受けるようになる。そこでは音楽理論、ソルフェージュ、音楽史、和声なども勉強する。小学校では算数、理科、詩、歴史などの勉強をする。つまり、ロシアの子どもたちは毎日楽器を持って2つの学校に通うのだ。18歳までの11年間、プロの音楽家になるための教育を受けることもできる。現在はロシアの経済状況がかなり悪いため、教育面でも良くない状況が続いているが、将来的にはロシアの音楽教育はもっと素晴らしいものになるだろうと思っている。

生徒と試行錯誤しながら一緒に音楽を作り出す
音楽教育において大切なものが何であるのか、はっきり言うことはできないが、まず第一に才能が重要だろう。その次に教師がテクニックを教えるだけでなく、音楽の魂を℃のように生徒に伝えるか、生徒それぞれの個性をどのように伸ばしていくかということが重要だと考えている。私の先生はただ学校で授業をするだけでなく、レッスンのあとにロシアの歴史や彼の友人のことなどについても話してくれた。また、冗談を言ったりして音楽的雰囲気というものを教えてくれた。もちろん授業でテクニックを教わることは大事だが、こう言った音楽的雰囲気を知ることができたということは、現在プロの音楽家として、とても貴重な体験だったと思っており、私の先生には大変感謝している。
今私には、ピッコロヴァイオリンの生徒が一人いるが(ピッコロバイオリンが1台しかないので、一人しか教えられないのだ)、これは私にとっても初めての経験であり、私はさまざまなことを生徒とともに、試行錯誤を繰り返しながら、一緒に音楽を作り出すことに成功した。私はそれをとても喜ばしいことだと思っている。いつの日にか、サンクト・ペテルブルグ国立音楽院がハッチンスのヴァイオリンを何台か購入し、ピッコロヴァイオリン科を作ることが、今の私の夢である。


(注)ハッチンスの新ヴァイオリン属
音域の高い方から、ピッコロ・ヴァイオリン、ソプラノ・ヴァイオリン、メゾ・ヴァイオリン、アルト・ヴァイオリン、テナー・ヴァイオリン、バリトン・ヴァイオリン、バス・ヴァイオリン、コントラバス・ヴァイオリン。すべてが同じ音色。

 

 


inserted by FC2 system